2025 Issue08
Local Tastes

TOFU, an Everyday Delight豆腐のある日常

型箱の中で成型した豆腐を水槽に取り出し、冷たい水に晒して灰汁抜きをする。豆腐を中までよく冷やすことで、日持ちがよくなる。一丁の大きさに切って包装する。固めてから一度崩して押し固める「木綿豆腐」は味がよく染み、崩れにくいので、煮物や炒め物におすすめだ。

白く、柔らかで、四角い「豆腐」は、大豆、水、にがりとごくわずかな原材料でつくられながら、水加減や製法の違いにより味や風味は千差万別。日本の気候風土や伝統文化に育まれた、地域色豊かな大豆加工食品だ。良質なタンパク質や脂質といった栄養素を豊富に含むもカロリーは低く、イソフラボンなどの機能性成分にも恵まれ、健康食、美容食、長寿食としても人気が高い。味わいは淡白で、夏は冷奴、冬は湯豆腐といった和食はもとより、中華や洋食、スイーツまで、どんな味付けや調理にも向く汎用性に富み、世界的にも「TOFU」の名で親しまれている。

焼く、揚げるなどすれば加工品に、乾燥させて凍らせることで保存食にもなり、製造過程で生まれる豆乳やおからも余すところなく食べ尽くせる。日本人に古くから愛され続け、時代を超えてなお魅力を増す「豆腐」の世界について深掘りしていく。

左 / 奨励品種のなかでも、東海地方から九州まで栽培される作付面積1位の「フクユタカ」。高タンパクで豆腐には向くが煮豆にはあまり向かない。中左 / 山形県の在来種で青大豆の一種「秘伝豆」。地元では主に「浸し豆」に使われる。中右 / 宮城県生まれの高級品種「ミヤギシロメ」は、えぐみが少なく大粒で甘みがあり、豆腐のほかに煮豆や和菓子にも用いられる。右 / 山形県の赤大豆のなかでも、川西町でつくられているものが「紅大豆」と呼ばれる。山形を代表する紅花にちなんで名付けられた。

豆腐が発祥の地、中国から日本に伝来したのは奈良時代。遣唐使として唐に渡った僧侶らによって伝えられたとされている。鎌倉・室町時代にかけて禅宗が広がるとともに、精進料理として普及。次第に武家でも食されるようになった。豆腐の製造も奈良から京都へと伝わり、室町時代に全国的に浸透していった。

現代のような庶民の食べ物になったのは、江戸時代。大豆をすりつぶす石臼が普及したことに加え、江戸時代中期(1782年)に刊行された豆腐料理のレシピ本『豆腐百珍』が大坂(現在の大阪)で刊行され、大ベストセラーになったことが契機となった。

「国産大豆の品種は推定で400以上ともいわれており、大豆加工食品のなかでも国産大豆の比率が高いのが豆腐です。大豆の選び方次第で味や香り、固さが変わるため、原材料を突き詰める職人もいます」と、豆腐マイスター工藤詩織氏。

安定供給のため栽培が促進されている奨励品種に対し、農家が昔から栽培し、種を受け継いできた品種を在来種という。後者は小規模栽培のため生産量は少なく、歩留まりの悪さや扱いづらさがある半面、個性がある。

「豆腐の味の決め手は豆乳の濃度。同じ大豆を使っていても、豆腐一丁に何粒分の大豆が含まれるかで出来が左右されます。やや薄めの濃度の豆乳でも安定して固められる技術があり、量販店では工業的につくられている手頃な豆腐もありますが、職人は大豆の濃度の高い豆乳にこだわる。同じ大豆でも舌触りや香りの強さが変わるので、知恵と工夫、経験が求められます。在来種を使う職人が減ると農家も途絶えて、豆腐の個性もなくなってしまいます」

100種の豆腐料理の調理法を解説した『豆腐百珍』。ベストセラーとなり続編もつくられた。

大豆の個性だけでなく、地域性が豊かなことも魅力といえる。例えば、縄で縛れるほど固い、石川県白峰村や富山県五箇山の堅豆腐。藁苞(わらづと)に入れて糸巻きし、熱湯で加熱することで保存性を高めた福島県のつと豆腐。にがり(凝固剤)に塩分濃度の高い海水を使うことで日持ちをさせる沖縄の島豆腐など、多種多様だ。

「現在のように流通網が発達していなかった時代、日本各地でどのように日持ちさせるかが考えられ、土地ごとに理にかなったつくり方が発展しました。ヨーロッパのチーズのように、豆腐も地域性豊かです」

海外では豆腐そのものが好まれているというよりも、地球環境への配慮や健康志向に価値を感じている人が多く、加工して食べるのが一般的だと工藤氏。

「日本の豆腐は納豆や味噌、醤油と違い発酵という過程がいりません。ダイレクトに大豆の味がわかるので、刺身のように鮮度がよく、豆腐そのものの味を生かした料理が多い。まずはそのままの状態で香りや舌触りを楽しんでもらいたいですね」

1960年当時、全国の豆腐屋はおよそ5万軒を数えた。現代のコンビニエンスストアの軒数とほぼ同数で、昔は「ひとつの町内に1軒は風呂屋と豆腐屋があった」といわれるほど、豆腐屋は身近な存在だった。ラッパを「トー」「フー」と響き渡らせ、売り歩く移動販売は昭和の原風景ともいえたが、2022年の調査では4599軒まで減少。ここ20年以上年間500軒のペースで減り続けている。

そうしたなか、昔ながらの風情を今も残しているのが1906年創業の浅草「市川豆腐店」。三代目店主の市川敏男氏の朝は早く、4時から仕事が始まる。

「味や出来にばらつきが出ないよう、大豆は秋田県産、山形県産、収穫量が多い北海道産など数種をブレンドして使っています。一時期は6種類使っていたこともありましたが、現在は4~5種類で安定しました」

割れ豆や破砕豆などを取り除いた後、何回も水洗いし、水に漬けた大豆を朝、注水しながらグラインダーでペースト状にすりつぶす(生呉・なまご)。つくる豆腐の種類に応じて水の量を加減して濃度を調整し、これを加熱する(煮呉・にご)。

「夏場だと6時間か7時間。冬場は24時間、水に浸します。熱帯夜には傷まないよう冷蔵庫に入れて冷やすことも。天候や気温を読み間違えないようにするのがひと苦労です。井戸水だった時代は、夜中に起きて様子を見るのが当たり前でした」

火入れした煮呉を布で絞って豆乳とおからに分け、豆乳ににがりを加えて固めれば豆腐の出来上がりだ。

市川豆腐店
※市川豆腐店は2025年1月末に閉店しました。

箱型で固めてカットしたものが、柔らかくなめらかな「絹ごし豆腐」。一度崩して穴の開いた型箱に入れ、重しで水分を抜いて固める「木綿豆腐」。豆腐が固まり切る前にお玉ですくい、容器に移す「寄せ豆腐(おぼろ豆腐)」。専用の豆腐を薄くカットして菜種油で揚げた油揚げなど。商品が店頭に並ぶ8時頃になると、ご近所さんが豆腐を求めにやって来る。出来たての豆腐は豆の味と香りが際立ち、雑味がなくてまろやか。調味料や薬味も必要としないほど純粋で、ありがたみすら感じるごちそうだ。

「昔はコンビニや冷蔵庫なんてないから、みんなの朝ごはんに間に合うように朝3時からつくり始めた。ごはんさえ炊けば、出来たての豆腐と熱々の油揚げで朝食がつくれた。当時の人にはそれが日常でした」

つくり手の数だけ個性があり、人々の生活に根差した豆腐づくりがある。豆腐屋がある町は、いい町だ。

仏教の戒律により肉食が禁じられていた僧侶の食事といえば、野菜や豆類など植物性の食材で仕立てる精進料理。豆腐は貴重なタンパク源であり、僧たちの探究心や調理技術の向上により、肉や魚に見立てたインパクトと満足感のある“もどき料理” として洗練されていく。とりわけ寺社の多い京都では精進料理の食材として豆腐が盛んに取り入れられてきた歴史がある。

加えて豆腐の8~9割は水でできている。三方を囲む山々から良質な地下水に恵まれる京都に、伝統的な豆腐づくりを受け継ぐ豆腐店や豆腐料理店が多いゆえんだろう。嵐山の天龍寺塔頭(たっちゅう)「妙智院」内にある「西山艸堂(せいざんそうどう)」はその筆頭に挙げられる嵯峨野で最も古いとされる湯豆腐屋だ。

「今でこそ観光地として人で賑わう嵐山ですが、戦後は土産屋も料理屋も何もないところでした。お寺にいらした歌人に振る舞うお昼として、料理好きだった先々代の住職がつくっていた精進料理をお出しするようになったのが始まりです」とは、女将の島見規子氏。

こちらで供するのは湯豆腐をメインにした定食。水切りした豆腐にニンジン、ゴボウ、キクラゲ、銀杏や百合根を混ぜ込んで揚げた飛龍頭(ひろうす)を炊いたもの。豆腐をうなぎの蒲焼に見立て、箱寿司風に仕立てた寿司は完成度が高く感心する味わいだ。

主役の湯豆腐は、昆布でとった出汁の中に浮かべた豆腐がふくよかで、いかにもおいしさが伝わってくる。「噛んで食べるのは豆腐ではない」というほど、京都はなめらかな柔らかい豆腐が好まれるそうで、同店の豆腐がまさにそれにあたる。

西山艸堂
京都府京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町63
Tel. 075-861-1609

使用しているのは150年の歴史を誇る「嵯峨豆腐 森嘉」の豆腐。徒歩圏内のご近所さんで、創業当時からの付き合いだという。

「『森嘉』さんのお豆腐は木綿豆腐なのに、絹ごし豆腐のような柔らかさとコシの強さ。京都は盆地だから、夏は暑く、冬は寒い。暑い季節は氷できゅっと締めた冷奴を。寒い季節には冷めてしまわないように七輪の炭火で湯豆腐に。煮るのではなく、最後まで温かく召し上がっていただく。同じ豆腐でも湯豆腐と冷奴とでは食感も風味も違います」

価値ある豆腐の味わいを余すところなく堪能できる精進料理と、そのおいしさを支える町の豆腐店。滋味深い豆腐には言葉に尽くせない深遠な魅力がある、そんな思いに至るだろう。

Text: Mamiko Kume
Photos: Sadato Ishizuka, Shimnei, Masatomo Moriyama

この記事は、2025年2月発行の「THE PALACE」Issue 08掲載の内容をベースに、2026年2月現在の情報として掲載しています。2025年の取材撮影時の写真やテキストを使用しているため情報が更新されていない部分もございます。ご了承ください。

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