東京都八王子市郊外と神奈川県の県境に広がる標高599mの高尾山は、手軽なハイキングから本格的な登山まで多彩なコースを楽しめる山である。都心から片道約1 時間という利便性と、2009年にミシュランによる観光ガイドブック『ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン』で三つ星を獲得してからはさらに登山者が増え、世界でも有数の登山客数を誇る。
高尾山薬王院を経て山頂に至る表参道コース(1号路)や、渓流に沿いながら琵琶滝を通過して頂上を目指す琵琶滝コース(6号路)など、登山コースが複数あり、いずれも往復3時間程度。麓から中腹まではケーブルカーやリフトを利用することもでき、普段着のままトレッキング気分を楽しめる。豊かな森には多様な野鳥や野生動物が息づき、運がよければ夜はムササビに遭遇することも。山頂に辿り着けば、そこからは奥高尾、奥多摩、富士山などをパノラマで一望できる。
高尾山展望レストラン
東京都八王子市高尾町2205
Tel. 050-3733-3437
遠く新宿や横浜の街並みを眼下に眺めるなら、ケーブルカーの終点にある霞台展望台や、「高尾山展望レストラン」のテラス席からがよいだろう。夏の4カ月間は「高尾山ビアマウント」として、和洋中30種ほどの料理と各種ビールをはじめとするドリンクを自由にチョイスできるビュッフェスタイルに。ジョッキを片手に暮れなずむ夕日や夜景に目をやれば、景色もまたごちそうになる。
都心を昼に出てもハイキングを楽しめる気軽さが高尾山のよさだが、高尾山を起点に西側の小仏城山を目指す奥高尾エリアや、隣り合う景信山や陣馬山へ尾根歩きをするハイカーのなかには、前泊して早朝から動きだす人も多い。2019年にオープンした山小屋スタイルのゲストハウス「Mt. TAKAO BASE CAMP」は頼もしい存在。ドミトリーやファミリールームなど計7部屋を用意。カフェ&バーのみ、シャワー&ロッカーのみ、レンタルシューズのみの利用も可能だ。トレイルランニングなどの各種コミュニティも充実しており、山遊びの拠点となっている。店長の加藤もと子氏は言う。
「宿泊者の目的は登山ばかりではありません。普段はここでリモートワークをし、日によっては都心へ赴き、オフの日は周辺散策に出かける方もいらっしゃいます。自然による刺激と癒やしの両方を得ることができるのが高尾山の魅力だと思います。私たちはそんな要望に応えられる“ 山の便利屋” を目指しています」
Mt. TAKAO BASE CAMP
東京都八王子市高尾町1799-3
Tel. 042-673-7707
ハイク関連のイベント以外にも、動植物観察、夜景・日の出観賞、クリーンアップなどを実施しているが、今注力しているのが、「東海自然歩道」の整備と他地域のベースキャンプとの連携。厚生労働省が提案した高尾山と大阪・箕面を結ぶ自然歩道で、11都府県約90市町村にまたがる。「このロングトレイルを安心して歩いていただくために、発着点となる高尾山から皆さまをサポートしていきたい」と加藤氏。
京王線高尾山口駅隣りの温泉「極楽湯」もまた、ハイカーにとってはありがたい。地下約1000mから湧き出る天然温泉に体を浸し、1日の汗を流して帰途につけば、格別の充足感を味わえる。

歴史のある食を楽しむことができるのも、高尾山の魅力のひとつ。国内外に22店舗のレストランを経営するUKAI が産声を上げたのも高尾だった。1964年、創業者の鵜飼貞男氏が高尾に300坪の土地を求め、「100年続く店づくりを」という理念のもとスタートしたのが「うかい鳥山」だ。現在は6000坪という広大な敷地に、大小約40棟が点在。旬の食材を用いた料理が供される。おすすめは「牛鶏コース」。牛串・鶏串の炭火焼に、季節の前菜や川魚、麦とろごはんなどが付く。訪れた人は川のせせらぎと鳥の声をBGMに、四季折々の風情を肌で感じることができる。「目覚ましく変わる東京を横目に、鵜飼は“古きよきものを残す”という使命を遂行していたように思います。敷地の入り口に立つ合掌造りは、地元の方々のお力も拝借し、1968年に越中五箇山から移築したもの。そうした人と人のつながりを重要だと考えていました。お客様に“ 本物” をご提供することに多くを費やしていたように思います」と、創業者の薫陶を受けた支配人・大神田一徳氏は語る。
うかい鳥山
東京都八王子市南浅川町3426
Tel. 042-661-0739
高尾山薬王院参道の入り口に立つ天保年間創業の「髙尾山 髙橋家」は、店内から屋根を突き抜ける樹齢150余年の柿の木が印象的なお蕎麦屋さん。薬王院は、744年に聖武天皇の勅命により創建された関東屈指の名刹。古くから修験道の霊場として知られ、今なお数多の参拝者を集める。この地で生まれ育った五代目女将の髙橋真紀子氏によると、創業当時は料理旅館だったという。「京王線が通るまでは不便な場所で、前泊して朝一番で参拝される方も多かったんです。30年前、主人と私が店を継いで改装した際、お店の地下から古い駕籠(かご)が見つかりました。ケーブルカーがなかった昔、それでお山を行き来するなど、参拝のお客様をあれこれとサポートしていたのだと思います」
髙尾山 髙橋家
東京都八王子市高尾町2209
Tel. 042-661-0010
麺は蕎麦粉6割をとろろ芋と上質粉で練り上げた細め。とろろは大和芋のねばりと、長芋のとろみを同割で合わせている。昔から高尾山にとろろ蕎麦の店が多いのは、山を登る参拝者に対し、滋養のつくものを食べさせるためだったというのがその理由。「最近は海外の方も、上手にお箸を使ってとろろ蕎麦を召し上がっています」と髙橋氏。温かいとろろ蕎麦にはとんぶり、冷たいとろろ蕎麦にはじゅんさいが入り、食感に変化を添えている。
都心からたった1時間の電車移動で到る自然豊かな高尾山。ここでは深く呼吸ができ、ひととき、喧騒を忘れることができる。
Text: Hiroe Nakajima
Photos: Shinsuke Matsukawa
この記事は、2025年2月発行の「THE PALACE」Issue 08掲載の内容をベースに、2026年2月現在の情報として掲載しています。2025年の取材撮影時の写真やテキストを使用しているため情報が更新されていない部分もございます。ご了承ください。







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